「中国留学に興味があるけど、治安ってどうなんだろう?」「反日感情で嫌な思いをしないかな?」
中国留学を考えるとき、多くの人がこんな不安を抱きます。ニュースでは「危ない国」というイメージが流れる一方で、実際に住んでいた人からは「カフェに荷物を置きっぱなしにしても大丈夫なくらい安全だよ」という話も聞きます。一体、どちらが本当の中国の姿なのでしょうか?
実は、このどちらのイメージも、中国の一つの側面を捉えた「真実」 なんです。
この記事では、なぜこのような二つの異なるイメージが存在するのか、その理由をデータとリアルな体験談から解き明かしていきます。一般的な治安の良さと、日本人だからこそ注意すべき特別なリスク。
この両方を正しく理解することが、安全で充実した留学生活を送るための鍵となります。
この記事を読めば、漠然とした不安が「なるほど、こういうことに気を付ければいいんだな」という具体的な知識に変わるはずです。一緒に「本当の中国」を見ていきましょう。
データで見る中国の治安:驚くほど安全?それとも…?
まずは「治安」というものを客観的に見ていきましょう。ここでは、犯罪データをもとに、中国の治安のリアルな姿を日本と比較しながら分析します。
1. 「意外と安全な中国」の現実:なぜ街での犯罪が少ないのか
多くの人が驚くことの一つに、中国の主要都市における街頭犯罪の少なさがあります。
中国公安部(日本の警察庁にあたる機関)の発表によると、犯罪件数は年々大幅に減少しています。例えば、2023年の刑事事件の立件数は前年より4.8%減り、窃盗や詐欺といった事件も2019年と比べて31.4%も減少しました。
このデータは、多くの留学生の日常的な感覚と一致します。僕が実際に北京で経験したように、レストランや図書館で荷物を置いたまま席を離れられる、というのは中国では決して珍しい光景ではありません。
その背景には、徹底したセキュリティ対策があります。
- 街の至る所に設置された監視カメラ
- 頻繁に見かける警察官や警備員
- 地下鉄の駅など公共交通機関の入り口で必ず行われるセキュリティチェック
こうした目に見える安全対策が、路上での突発的な犯罪を強力に防いでおり、多くの人が日常的な安全を実感できる社会環境を作り出しているのです。実際に中国留学した学生からも、「街灯が明るく、夜道を一人で歩いても不安を感じなかった」という声が聞かれます。

ぼくも中国で身の危険を感じたことは今までないです!
2. 数字で比べてみよう:日本と中国の犯罪率
公式の統計データは、感情的なイメージを一旦脇に置いて、客観的に物事を見るための大切なツールです。少しデータが古いですが、日本と中国の犯罪に関するデータを比較してみましょう。
表1:日中犯罪統計比較(一部抜粋)
犯罪指標 | 中国(最新データ) | 日本(最新データ) | 注記 |
殺人事件発生率(10万人あたり) | 約0.5人 (2020年) | 約0.2人 (2023年、912件を基に算出) | 中国の発生率は世界的に見ても極めて低い水準ですが、日本のそれよりは若干高い。 |
犯罪率全体(10万人あたり) | 約121人 (2021年、有罪判決ベース) | 約560人 (2023年、認知件数ベース) | 統計の定義が大きく異なる。中国は裁判所の有罪判決数、日本は警察の認知件数を基にしており、直接比較は困難だが傾向の把握には有用。 |
窃盗(総件数) | 425万件 (2011年) | 48万件 (2023年) | 中国のデータは古いが、窃盗が最も多い犯罪類型である点は日本と共通している。中国における件数の絶対数の多さは注目に値する。 |
このデータから、少し複雑な現実が見えてきます。殺人事件の発生率は驚くほど低く、「危険な国」という単純なイメージが当てはまらないことがわかります 。一方で、窃盗などの件数は依然として多く、身の回りの持ち物には注意が必要であることも示唆しています。
つまり、「暴力犯罪に巻き込まれるリスクは低いが、スリや置き引きなどには気をつける必要がある」 ということです。
ただし、中国の公式統計の正確性については様々な意見があり、また犯罪の定義も日本とは異なるため、これらの数字はあくまで全体的な傾向を掴むための参考として見てください。

データが古いので、今の中国の治安はもっと良くなっていると思います!
3. 見えにくい危険:日本人が特に注意すべきこと
街の安全性が高い一方で、いくつかの「見えにくい危険」も存在します。そして、そうしたリスクの中には、外国人、特に日本人をターゲットにしたものが含まれます。
非暴力犯罪:スリ、置き引き、詐欺
在中国日本国大使館が繰り返し注意を呼びかけているのが、空港や駅、レストランなど人が多い場所でのスリや置き引き、そして携帯電話やインターネットを使った詐欺です。海外で日本人が遭う犯罪被害の多くは窃盗であり、基本的な注意は絶対に怠ってはいけません。
暴力犯罪:非常に稀だが、ゼロではない
統計上、殺人事件の発生率は低いものの、近年、日本人を標的とした痛ましい事件が起きたことも事実です。深圳市で日本人学校の児童が襲われ死亡した事件や、蘇州市で日本人学校のスクールバスを待っていた母子が襲われた事件は、日本に大きな衝撃を与えました。
これらの事件は統計的には極めて稀なケースです。しかし、全体的な治安が良いこととは別に、日本人であるというだけで深刻な暴力の標的になる可能性がゼロではない、という厳しい現実も示しています。
このように、中国の治安は「安全」「危険」のどちらか一方では語れません。国全体の強力な管理システムによって街の安全が保たれている一方で、そのシステムをかいくぐり、特定のターゲット(特に外国人)を狙った犯罪も存在します。また、アメリカ国務省は、中国の法律がその時の都合で運用されたり、不当に拘束されたりするリスクも指摘しています。留学生が日々感じる安全と、潜在的なリスクは、同じ社会システムの裏表の関係にあるのです。
反日感情のリアル:敵意から友情まで、様々なカタチ
次に、物理的な安全だけでなく、日本人として中国で生活する上での心理的・社会的な側面、つまり「反日感情」について見ていきましょう。
1. 「原爆を落としてよかった」:剥き出しの敵意に直面したとき
これは僕が実際に日本人会の仲間との食事中に「日本に原爆を落としてよかった」という暴言を浴びせられたという経験があります。これは、歴史認識や政治的なメッセージによって、一部の人々の心に根付いた感情の表れと言えます。
こうした感情の背景には、中国社会で共有されている特定の歴史観があります。中国のテレビでは、旧日本軍を悪役として描く「抗日ドラマ」が頻繁に放送されています。また、学校教育でも「抗日戦争」の歴史が重点的に教えられており、特定の歴史の物語が国民の意識に深く刻み込まれています。そのため、一部の人々は「日本人」を個人としてではなく、歴史上の加害者というイメージで見てしまうことがあるのです。
ただし、こうした言動が必ずしも本心からではない場合もある、という指摘もあります。周りの空気に合わせたり、何らかの利益のためだったりすることもあるようです。しかし、どんな理由であれ、敵意を向けられた側が受ける心の傷は計り知れません。
2. カレンダーをチェック!注意すべき「敏感な日」
反日感情は、一年中同じレベルで存在するわけではありません。政治的な出来事に応じて強まったり弱まったりし、特に特定の記念日には高まる傾向があります。前回の記事でも紹介しましたが、ここでも再度日本人留学生として知っておくべき「敏感な日」を簡単に紹介します。
- 7月7日(盧溝橋事件):日中戦争が始まった日。
- 9月3日(抗日戦争勝利記念日):中国にとっての終戦記念日。
- 9月18日(柳条湖事件):「国恥の日」とも呼ばれ、特に反日感情が高まりやすい日の一つ。
- 12月13日(南京事件国家追悼日):近年、国家的な追悼式典が行われ、メディアの注目も集まります。
これらの日には、在中国日本国大使館や外務省から、「目立つ行動は避け、言動に注意してください」という注意喚起が出されるのが恒例です 。
また、歴史的な記念日だけでなく、現代の政治的な対立が反日感情の引き金になることもあります。例えば、福島第一原発のALPS処理水海洋放出を巡っては、中国国内で日本関連の施設への嫌がらせ電話などが多発しました。これは、個人の安全が、国と国の関係に直接影響されることを示す例です。過去に起きた大規模な反日デモも、個人の感情だけでなく、政治的な背景が複雑に絡み合っていました。


敏感な日はカレンダーに登録しておくと安心です!
3. でも、それが全てじゃない:親切、好奇心、そして日本文化への愛
しかし、敵意や政治的な緊張の話ばかりでは、中国での日常の大部分を見過ごしてしまいます。留学生が経験する日々の交流のほとんどは、温かい親切心、純粋な好奇心、そして日本文化への共感に満ちています。
多くの中国人、特に若い世代にとって、「日本」と聞いて思い浮かべるのは、歴史の教科書よりも、大好きなアニメ、音楽、ファッション、ゲームといったポップカルチャーです。日本人留学生が自己紹介をした途端、好きなアニメの話で一気に盛り上がった、という経験は数えきれないほどあります。こうした文化的なつながりは、政治が作る壁を簡単に乗り越える力を持っています。
また、個人レベルでの親切なエピソードもたくさんあります。道に迷っていたら目的地まで連れて行ってくれた、私たちの緊張をほぐすために日本語で少し挨拶をしてくれた、など、中国人の優しさに心打たれたという話は珍しくありません。長年中国に住んでいる日本人の中には、「日本人だからという理由で嫌な思いをしたことは一度もない」と断言する人もいます。
ここには世代間の違いも大きく影響しているかもしれません。反日的な暴言を吐いたのが中高年世代だったという話はよく聞かれます。戦争の記憶やその後の教育を強く受けた世代と、グローバルな文化の中で育った若い世代とでは、日本に対するイメージが大きく異なることがあります。留学生が主に関わる同世代の若者の間では、歴史問題が個人の友情の妨げになることは少ないでしょう。
留学のリアル:現地で学ぶ学生たちの本音
ここでは、実際に中国で学んだ、あるいは今まさに学んでいる学生たちの「生の声」を通して、留学生活の光と影を見ていきましょう。
1. 「中国は危ないと感じた」人たちの声
まずは、「危険」や「不安」を感じた学生たちの体験談です。
- 犯罪や詐欺に遭った「深圳の雑踏で、気づいたらカバンのチャックが開けられていた」「広州の市場でしつこい客引きに囲まれて怖かった」など、スリや置き引き、ぼったくりに関する体験談は少なくありません。特に深圳や広州のような、人の行き来が激しい南部の大都市では、より一層の注意が必要だという声が多いです 。巧妙な詐欺に遭い、多額の金銭を失ったという痛ましい報告も存在する。
- 精神的なストレス直接的な被害はなくても、常に気を張っていなければならない生活がストレスになることも。「街中でじろじろ見られるのが不快だった」「大声で言い争う人をよく見かけて、怖く感じた」といった声は、文化の違いからくる心理的な負担を物語っています。
- 反日感情に直面した冒頭で紹介したように、反日的な言葉を直接投げつけられた経験は、心に深い傷を残します。たった一度の出来事でも、「日本人というだけで敵意を向けられることがある」という現実は、大きなショックと孤独感につながります。
2. 「中国は安全だと感じた」人たちの声
一方で、中国での生活を「とても安全だった」と振り返る学生もたくさんいます。
- 夜でも安心して歩ける「上海では、女性一人で深夜にタクシーに乗ったり、歩いて帰ったりすることに全く不安を感じなかった」という声は非常に多く聞かれます。これは、他の多くの国の主要都市では考えられないことで、中国の治安の良さを象徴する体験です。
- 置き引きの心配が少ない「カフェや図書館で、ノートパソコンやスマホを置いたまま席を立つ現地の学生たちを見て衝撃を受けた」というエピソードは、この意見を裏付ける最も代表的な話です。日常的な窃盗が少ないという社会への信頼感が、このような行動を可能にしています。
- 人の親切さと生活の便利さ困っている時に見知らぬ人に助けてもらった経験や、大学のキャンパスでの友人とのつながり、そして世界最先端のキャッシュレス決済がもたらす便利で安全な生活は、中国での暮らしの質の高さを感じさせます。
3. なぜ体験が違うのか?大切なのは「状況」の理解
「危ない」という声と「安全」という声。一見、矛盾しているように聞こえますが、これらはすべて本当の体験です。どちらを経験するかは、その人が置かれた「状況(コンテクスト)」に大きく左右されます。
- 場所による違い:厳重に管理された首都・北京と、様々な人が行き交う商業都市・広州、あるいは民族問題などを抱える新疆ウイグル自治区とでは、治安の状況は全く異なります。
- 状況による違い:安全な大学のキャンパス内と、観光客でごった返す市場や深夜の繁華街とでは、遭遇するリスクの種類もレベルも全く違います。
- 意識による違い:ぼったくりの手口や、政治的にデリケートな話題について事前に学んでいる学生は、そうでない学生に比べてトラブルを避けやすくなります。安全とは、ただ与えられるものではなく、正しい知識を持って行動することで自分で作り出すものでもあるのです。
結論:不安を知識に変えて、最高の留学生活を!
この記事を通して、中国の治安や反日感情には、二つの側面があることがお分かりいただけたかと思います。
一方では、世界でもトップクラスの公共の安全が保たれており、日常生活では多くの人が安心して過ごしています。僕自身、中国は他の国に比べて監視システムが確立されており、とても安全だなと感じます。しかしその一方で、日本人留学生は、巧妙な詐欺や、複雑な歴史・政治問題からくる特別なリスクに直面する可能性もゼロではありません。また、中国語を上達させることでトラブルになった際、スムーズに解決できることが多くなります!
この記事の目的は、皆さんの留学への夢を怖がらせて諦めさせることではありません。むしろ、メディアが作る漠然とした「怖い」というイメージを、「なるほど、こういうことに気をつければいいんだ」という具体的で対処可能な知識に変えることです。どんなリスクが、どんな時に、なぜ存在するのかを理解すること。それこそが、リスクを賢く避けるための第一歩です。
さて、中国の安全性を巡る全体像が見えてきたところで、次はいよいよ具体的な行動計画です。中国で生活する上で知っておくべき法律、避けるべき話題、そしてデリケートな状況を乗り切るための心構えについて、さらに詳しく知りたい方は、ぜひこちらの記事もご覧ください。

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